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猿ぐつわを噛まされた口からは何も語られることはなかった。ただうっすらと開いた目が、何かの意思を伝えようとするかの如く細められる。
話すという選択肢を与えないまま徹底的に痛めつけ、その精神を抉る土方さんに、共に立ち会っている近藤さんと山南さんの二人も流石に眉を潜めていた。
「なあ歳……」
「近藤さんはもう少し黙っててくれ。……おい」
近藤さんの言葉を遮り、土方さんがぶら下がる喜右衛門の頭を見下ろす。
その横顔はとても冷たく笑っていた。
「おめぇは大事な情報源だからな、俺も殺したくはねぇんだ。だから、死ぬんじゃねぇぞ?」
振り下ろされる木刀に鈍い音が響く。
それに顔を背けた近藤さんたちとは対照的に、俺は、苦痛に呻き揺れる喜右衛門からただじっと目を離すことが出来なかった。
程なくして喜右衛門が吐いたのは、再び京に潜伏しているという長州の人間の、壮大かつ馬鹿げた計画の全容だった。
風の強い日、京に火を放つとその騒ぎに乗じて天子さま(天皇)を長州へとお連れする――今こそ尊皇攘夷の決行を。
到底まともな人間が考えたとは思えないそんな計画の為に、大量の火器が桝屋に隠されていたという訳だ。
京の町を火で焼き、戦を起こそうとしていた連中に、さっきまでは少しばかり腰の引けていた近藤さんも目を吊り上げる。
だがそんな反応とは逆に、やはり土方さんは不敵に笑ってみせた。
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