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威嚇するような、そんな口調になってしまった。相手が息をのむのが分かる。
「僕はゆう、更科祐です。あなたが僕をここに連れてきたんですか?それともあなたもここに、連れてこられたんですか」
その声に先ほどの怯えはなく、凛として強い意識を持った言葉が響く。
「俺も連れてこられたんだ、たぶん。何せ今気が付いたばっかりで状況が把握しきれていない」
「僕もついさっき目が覚めたばかりなのでまだ理解しきれていません。けど僕はこんな場所知らないしここへ来た記憶もないんです。」
そこまで一気にいた後口を閉ざし、あなたもそうなんですか、と聞いた。
「俺もだ、ここに来た覚えなんてないし。状況からして俺ら誘拐されたっぽいな」
「誘拐......」
少年のいったその言葉が重たい響きを持って俺へと伝わる。
誘拐される理由なんて、僕にはない。どうして僕が」
再び震えだすその声。怒りを、感じているのだろうか。それが普通の感情だろう。不安、恐怖、戸惑い、怒り。こんなわけのわからない状況で冷静でいろ、なんていうほうがおかしい。それでも俺もあの少年もまだ自分を失ってはいない。まだ、そこまでの恐怖を感じてはいなかった。
「俺にもわかんねーよ。なんも見えねーし臭いし身体重いし最悪」
「えっと、あなたは」
斗真だ、そう俺は口をはさんだ。
「斗真さんは何か見たり触ったり、僕たちの置かれている状況について何か情報みたいなものってありますか?」
その言葉でさっきのおう吐物を思いだす。人のおう吐物を触ってしまったなんて、一生のうちで最も嫌なことランキングに入るかもしれない。
「あー、そこに誰かが吐いてたっぽいぞ。このにおいもたぶんそれが原因じゃねーかな。それ以外は、なんもわかんないけど」
「そうですか。とりあえず僕そちらに行きますね、こうずっと声を張り上げるようにして会話をするのもあれなので」
俺に近づく、その行動に少し警戒するように身体が構える。同然だ、まだ信用なんてできるわけがない。もしかしたらこいつが俺をここに連れてきた本人だってことだってあるかもしれないから。
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