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「は......?」
彼女の顔は確認できなかったが、きっと魂の抜けたような、馬鹿みたいに阿呆な表情をしていたに違いない。彼女の声はそれを思わせるものがあった。
「いや、は?誘拐ってどういうことよ。ぜんっぜん意味わかんないんですけど。あ、あんたら二人が私をつれてきたわけ?こんなきったないところで犯そうっていうの?」
その思考回路にため息が出そうになる。これだから馬鹿な女は嫌いなんだ。動揺を隠しすらしない。もう少し状況を考えて、いったん頭の中で整理してから言葉にできないものか。
「違います、僕たちも誘拐されたんです」
「そ、そんなの信じるわけないでしょ!!!!かっ帰してよ家に!!!!!や、やだころさないでええええええ!!」
「静かにしてください。」
祐が彼女の口をふさいだのがわかる。もごもごと言葉にならない声を上げて抵抗しているのだろう、うめき声のようなものが聞こえた。
「大声を出しては僕たちを誘拐した犯人が気づいてしまうかもしれません。まだ状況が何も把握できていない、この状況は不利です」
「そのまま女の口塞いどけ。俺はもう少しこの部屋のこと調べてみる」
祐の返事を聞いた俺はゆっくりと足を一歩前に出す。さっきより呼吸が苦しくなっているような気がした。いつの間にか口で大きく呼吸を繰り返している。もしこのまま扉を見つけられずにあと数時間もたったら、それこそ本当に死んでしまうのではないか、そんな不安が頭を巡った。
「ぁ、ぁのう」
低く弱弱しい声が響く。誰だ、まだ俺たちと同じように攫われた人がいるのだろうか。
「誰だ、お前が俺たちをここに連れてきた奴か?」
こんな力のない声の主が犯人、だなんて考えるのは難しかったが一応の可能性はつぶしておかなければならない。もし犯人だったとして素直にそうです、なんていうわけもないかもしれないが。
「ちっちがいます、私は目が覚めたらここにいて、あなたたちの声が聞こえたものですから」
「お父さん、苦しいよぅ」
男の声に続くようにして小さな子供特有の高くて舌足らずな声がした。
「子供?子供がいるのか?」
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