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「私は花巻アイカ。専門大生。てかあんた高校生だったわけ?うっそー、みえなーい!!顔みてないけど高校生なんかにみえなーい!!」
いつの間に手を離していたのか、彼女の声が再び耳を刺す。さっきまでとは打って変わり、能天気というか緊張感のない声を上げた。
「皆さんお若いんですね。私は日比野敏行と申します。こっちは娘の春香」
「こんにちわ」
怯えを含んだその声に犯人に対する俺の怒りは増していく。なんだってこんな小さな子供まで誘拐しなきゃいけなかったんだ。なんでこんなことを、しなきゃいけなかったんだ。
「じ、自己紹介なんてしたって意味ないよ。ど、どうせ、俺たちは死ぬんだっ!」
またしても新たな声がした。どもったその声は明らかにデブでオタク、そんな印象を与える。まだ人がいたというのか。
「死ぬとか思うのは勝手だけどな、それを口にすんじゃねえよ不快だデブ」
このわけのわからない状況や息苦しさ、それとジメジメとした暑さのせいで俺の口調は荒くなる。他人の気持ちを考える余裕なんて、とうになくなっていた。
「斗真さん、その言い方はないでしょう。デブだなんて、姿を見たわけでもないのに」
「は、んなもん見なくたってわかるっての。ここにゲロ吐いたのもお前だろデブ」
イライラする。
「っ斗真さんいい加減に」
ジ、ジジーーーーー
どこからか鳴るその不快な音に祐の声はさえぎられる。何の音だ?古いラジオから聞こえるような、そんな機械音。
「起きたね、みんなおきてたねえ。気づくのが遅れちゃってごめんよぉ。けど僕ちん悪くないよね、ねえ悪くないよねえ?君たちが勝手に僕ちんが気づく前に起きたんだもん。悪いのは君たちだよぅ。」
犯人だ。
一瞬でそう確信した。今までで一番気味の悪くて、不快で、怖い、声。全身が一気に汗ばむのが分かる。細胞のすべてが恐怖を発信しているかのような、感覚。怖い。その感情一つが俺のすべてを支配する。本能が感じているようだった、こいつは危ない、と。
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