――櫻井 彩夏

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ランドマークタワーの中は楽園だ。 少なくとも、今の私にとっては楽園だ。 ウィンドウショッピングでは無く、目についたものを、取り合えず 、買う。 値札何て見ない。有名ブランドのブティックで、自分に合ったサイズの服を端から端まで全て買う。 やってみたかったんだ、これ! セレブの御姉様に成った気分! 店員さんの驚く顔が面白い。 試着して、合わせなくて良いのですか?何て聞くけれど、良いのよ。どうせ着ないのだから。 店員さんの質問には答えず「コレでお願いします」とカードを手渡す。 少なからずムッとした表情を見せた店員さんが、慌てて営業スマイルを取り戻してカードを受け取り、そそくさとレジへ向かった。 ああ、いい気分!!! ……◇……◇…… 何軒かのブティックで、端から端まで買いをやったら、直ぐに飽きてしまった。 最初は楽しいと思っていたけれど、とってもつまらない。 「選ぶのが楽しいのよね、私的には」と、ぼそりと呟く私は滑稽だろうか? 金額も、買った枚数も。色も形も分からない大量の服達が自宅に宅配された時、私は私に何を思うのだろう? ま、いっか。 次に私は、地上272メートルにある展望フロア、スカイガーデンに登って景色を眺める。 そこからは、眼下に広がるミニチュアみたいな街並みと、何処までも蒼く、高い空が見えた。 ……。 不意に「大丈夫ですか?」と、声を掛けられた。何が?と思い、声を掛けてきた人物を見ると、10代であろう若いカップル。 「あの、良かったら、これ……」 彼女が私に、おそるおそる、そっと差し出したのは、ハンカチ え? やだ、嘘!? いつの間にかに、頬を濡らした自分が そこに居た。
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