――櫻井 彩夏

7/10
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
「とーちゃくぅー!」 筒状布娘の一人が、さも嬉しそうに窓の外を見ながら目を潤ませている。 つられて窓の外を見れば。 其処にそびえ立っていたのは八雲製菓の本社工場ビル。 此処に来るまでにスマホで調べた。八雲製菓本社工場ビルは新潟県にあり、本社、生産工場、そして一ノ瀬社長の自宅と従業員の寮も兼ねていると。 きっと私は、その寮に入るのだろうな。 「…………っつ?」 ……まただ。 身体の芯が甘く痺れる。 「おねーさん!八雲様が待ってるから、行こっ!」 「あ」 2人の筒状布娘に両手を引っ張られ、私はマイクロバスから地に降りる。 爽やかな風に頬を撫でられながら、小走りに八雲製菓本社工場ビルへと向かえば、私の胸は高鳴り、またもや芯に、甘い痺れを覚えてしまう。 ―――もうすぐ、もうすぐ逢える! 誰に?誰に逢える? 私は誰に逢いたいの? 八雲製菓本社工場ビルの入り口の、両開きの大きな自動ドアが音も無く開き、私達が中へ入れば、身体の芯の、甘い痺れがピークを迎える。 「…………!っ、立ってられない…………」 ヘタと座り込む私の前に、スッと、誰かが立った気配がする。 「来たわね。よちよち。」 その気配の主に、よちよち言われながら頬を撫でられた瞬間に、 私の頬を伝う、涙 分からない。私は、何故泣いているの? 私は、何故此処に来たかったの? 「あひゃひゃ。よく来たにょ。私が八雲ぢゃ。」 「八雲……様……?」 その名前を聞いた瞬間に、私の涙腺が更に崩壊した。 ああ。そうか。今 判った。私は、八雲様に逢いたかったのか。 八雲様が、優しく手を取り、私を立たせて下さった。 被ってるっぽい頭髪は『八』の形で その下に太く繋がった眉毛。 あら?太く繋がった眉毛の下に、 もう1対の眉毛が有るわ? 変わったデザインの顔ね。 更に燐とした鼻筋は、太く繋がった方の眉毛と繋がっている。 斬新だわ。 そんな斬新な鼻筋の下にはタラコ唇と 『ム』の形をした髭。 丸みを帯びた、優しそうな輪郭と、横長の瞳が美しい。 八雲様!逢いたかった! 何故なのかは分からないけれど、逢いたかった! 「ん。ぢゃ、早速、愛部屋へ連れて来るのぢゃ。」 八雲様が、傍に居た筒状布を着た娘にそう告げると、廻りを取り巻いていた筒状布娘達が、ワラワラと私を取り囲み 「おめでとう!」 「頑張るのよ!」 とか言いながら、私の背中を押して行く。 image=494436215.jpg
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!