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帰路に付く。
いつもとまったく変わらない日常のヒトコマの中、私には一つの習慣が出来た。
自宅に戻り、ソファーに腰掛けると、鞄の中に小さな巾着袋を取り出し、中の鍵を握り締めるのだ。
その瞬間、視界が揺れ始め、なにかが見え始める。
なるほど、明日はオーダーミスをするのか。
しかも、ミスのお詫びを求め、責任者を呼べと大騒ぎをするという、ふてぶてしい輩のようだ。
この人物のオーダーの際はゆっくりと行い、細心の注意を払おう。
揺れが収まると、私は手帳に映像を書き込み、その詳細を出勤前に確認してから仕事をする。
――これが私の習慣になった。
「急に動きがよくなったね。」
上司に突然褒められ、私は困惑する。
鍵で出来事を先読みしている以上、動きはよくなるに決まっている。
しかし、上司に話すことは出来ず、苦笑して誤魔化してばかりいる。
私はこの不思議な鍵で未来を先読みすることは止められそうにない。
だって、怒られたくないからだ。
私は未来を先読みし、怒られる回数を減らし、有意義に働く時間を手に入れようと考えた。
この鍵に出会って、本当によかった。
鍵の落とし主に感謝するしかない。
End
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