2人が本棚に入れています
本棚に追加
早足で廊下を歩き、階段を下りる。そして、居間のドアを開ける。そのとたん、クーラーで作り出された天の恵みともいえる冷たく乾いた空気が、俺の体の隅々までを駆け抜けていき――――
「っておい! なんでクーラーつけてんだ!」
「あ、はやくドア閉めてよ。冷たい空気が逃げちゃうじゃん」
居間のソファで、一歳年下の妹の燈(あかり)がアイスを食べながらテレビの料理番組を見ていた。
「おまえ、俺がくそ暑い思いしてクーラーなしで過ごしてるっていうのに、それをおまえ、こんな、おまえ、」
「うるさいなあ、今テレビ見てるんだから静かにしてよ」
イラッ
「くっそ! せめて設定温度を上げろ!」
そう言って、ソファの上にあったクーラーのリモコンを取る。
「あ、ちょっとなにやって――――」
「くっそ! 二十五度とか下げすぎだろ!」
「ちょっと! 話を聞いて――――」
「くそ! もう上がんないのかよ! 三十二度までとか、もっと上げろよ!」
「人の話を聞けえええええ!」
「ぐはあっ!」
後頭部になにか硬いものが当たった。
「いってえ……」
目の前に落ちたものを見る。
「…………ノート?」
「早く返してよ! メモするんだから!」
「メモ?」
テレビでやっている番組を見る。さっきと同じ料理番組。テーマは、『意中の彼を仕留めるおいしいお弁当のおかず』、いや仕留めちゃだめだろ。
「はは~ん?」
「な、なによ?」
「おまえ、料理も出来ないくせにこんなの見てメモ取ってんの?」
「そ、そんなのわたしの勝手でしょ!」
「まさか宮部に作るつもりじゃねえだろうなあ?」
「うっ」
「やめとけやめとけ。どうせ失敗して恥かくだけだぞ」
「そんなのわかんないでしょ!」
「分かる分かる。だっておまえ、砂糖と塩を正しく使えたことないじゃん」
「…………」
「そもそも料理出来る人間がこういうのを見て作るんであって、おまえみたいな素人が作れるものじゃ――――」
最初のコメントを投稿しよう!