奴隷コンタクトレンズ

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古いが大きめの木造の家。壁はあちらこちら剥がれていて、屋根の瓦もいくつか落ちている。玄関から中に入り、ギシギシとやかましい廊下を真っ直ぐに歩いた。 再奥の部屋の襖の前でひざまずき麻里奈様は中に声をかけた。 「神様。新しい仲間をお連れしました」 部屋の中から「ああ」と知らない男の声が聞こえた。さらに「入れ」と不遜な声。 襖を開けて一緒に入ろうとした麻里奈様を制した。 「麻里奈様。部屋の外で待ってて。中には1人で行くから」 俺の神様は麻里奈様。 不安げに俺を見上げる麻里奈様に俺は笑ってみせた。 「大丈夫。何も心配いらないよ」 俺はあらためて「失礼します」と声をかけて襖を開け、中に入ってすぐに閉めた。 部屋の布団の上にいたのは貧相な男。こけた頬にまだらなヒゲの生えた顔。スウェット姿であぐらをかいて、大きなあくびをした。 「なんだ、男か」 そう残念そうに言った男。 俺は獲物を狩る鷹のように、男に飛びかかった。そのまま馬乗りになって渾身の力で男の首を絞めつける。 「………ッ……ゃ………」 話せないように男の首に全体重をかけた。 俺の神様は麻里奈様。麻里奈様の神様は ……ただの人間。 「……………ぁ……」 「麻里奈様を助けないと……」 男の顔が真っ赤になって、口の端から唾液がこぼれ落ちた。 “どうしてこんなことに” 男の目が俺にそう訴えた。力を緩めることなく俺は男に尋ねた。 「自分の人生の主役は誰だと思う?」 うめき声しかあげられない男。でも答えなんて聞かなくてもわかる。 「自分。そうだ、そのはずだ。なのに起きることは不条理なことばかりだろう」 「……ッ……………」 赤子のような力で手を引っ掻かれたがそんなことは気にならない。 「今この瞬間だって他人に蹂躙されようとしている」 ピクリとも動かなくなった男に言った。 「ほら、身動きも取れない」 布団の上で絶命した男。不思議と罪悪感はない。だって俺にとって大切なのは“俺の神様”だけなんだから。 「仕方ないさ。全部仕方のないことだ」 ――…部屋の外で麻里奈様の声が聞こえた。 ……「石田様」と。 ああ、誰か見てしまったのか。 大丈夫。何も心配いらないよ。 俺がいるから。 あなたの奴隷の俺がいる。 【奴隷コンタクトレンズ】
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