奴隷コンタクトレンズ

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自分の人生の主役は誰だと思う? 自分。そうだ、そのはずだ。なのに起きることは不条理なことばかりだろう。 今この瞬間だって他人に蹂躙されようとしている。 ほら、身動きも取れない。仕方ないさ。全部仕方のないことだ。 【奴隷コンタクトレンズ】 柱の影でピンと耳をそばだてる。聞こえるのはピチョンピチョンと落ちる水の音。それと風が窓をガタガタと揺らす音。 そっと自分の瞼を少しずつ上に持ち上げた。 (よかった。まだ来てない) 視界に入ったのは見渡す限りコンクリートで形成されただだっぴろい空間。壁も柱も天井も床も。床に溜まったホコリ。曇った窓ガラス。 俺は柱に持たれたままズルズルとその場に腰を下ろした。手汗で床のホコリがまとわりつく。時刻は17時10分。 ホッと一息つこうとした時に、下の階から女の鼻にかかった声が聞こえた。 「カーズーくん。どこにいるのー?」 それとひたひたと階段を登ってくるじゃりの音。鉄パイプをズルズルと引きずる、カランカランという金属音。 美貴(ミキ)。 俺は女運がめっぽう悪い。いや。たぶん見る目がない。 1つ前の彼女の麻里奈はいきなり新興宗教にハマり、しつこく勧誘してきたから別れた。 昨日別れ話をした彼女、美貴は尋常じゃないくらい束縛の激しい女だった。 LINEは常に無限ラリー。女友達なんてもってのほか。口を聞くのも禁止。大学の教室で隣同士で座るのも禁止。 嫌気がさして昨日別れを切り出した。そうしたらわんわん泣かれて、今までのことを謝罪された。 そのうえで「最後にドライブに行って夕日を一緒に見て欲しい」としおらしくお願いされた。 ……OKしてしまった。 美貴の運転で山に来て、車内で差し出されたコーヒーを飲んだ。 それから先の記憶はない。猛烈な眠気に襲われた気がする。そして次に目が覚めた時には、この知らない廃ビルの中にいた。 ******
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