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横たわり目をつぶったまま、俺は拳をぎゅっと握って声がした方へ思い切り殴りつけた。
手の甲の骨にあたる、髪の毛と皮膚ごしの硬い骨の感触。美貴の悲鳴。
「ッいたーい!」
ジンと痺れる手。当たったのは当たったが、頭だ。顔じゃない。もう一撃入れたかったが目をつぶったままでは不利だ。
立ち上がり、暗闇の中を美貴の息づかいが聞こえない方に駆け出した。
額と鼻に火花が散るような衝撃。どうやら思い切り壁にぶつかったみたいだ。鼻の中からするりと垂れてきた血を拭った。
そして……そっと目を開ける。
壁じゃなかった。俺がぶつかったのはコンクリートの柱だった。
まだ奥には逃げ道がある。
背中で「カズくん!」と怒りを含んだ声を聞きながら俺は一目散に逃げた。とにかく逃げなければ。
決して振り返ってはいけない。
惜しむらくは逃げ出した先が出入り口と反対側だったこと。走った先にあったのは上り階段。出口は無い。しかしUターンは出来ない。
美貴は逃げられた時を想定して自分が出入り口側に座っていたのだろう。
俺はそのまま階段を思い切り駆け上がった。大丈夫。奴隷コンタクトレンズからの逃れ方を俺は知っている。
このビルのどこかで“アレ”さえ見つければ俺の勝ちだ。
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