奴隷コンタクトレンズ

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「カズくーん」 鉄パイプを引きずる音と俺を呼ぶ声。どんどん近くなってきた。階段をひたひたと上がってきている。 「返事してよー」 するわけないだろ。こんなコンタクトレンズを俺につけやがって。 このコンタクトレンズは自分で外そうとすると角膜も剥がれてしまう。鏡を見て奴隷化を防いだ後に病院に行かなきゃならない。 俺と同じ4階についた美貴がこっちに歩みを進めてきた音が聞こえた。俺はぴったりと奥の柱の影に身を寄せている。 「カズくん! なんで愛してるのに逃げるの!? ねえ、なんで!? 一緒にいたら幸せになれるんだよ」 パキンと美貴がガラスを踏んだ音がした。 柱から飛び出し、俺は目をつぶったまま音がした方へ思い切り自分の鉄パイプを振り回した。 ガン、と鉄パイプ同士がぶつかった音。手に伝わる痺れ。美貴が言った。 「痛たた。手がビリビリするよー。こんなところにも鉄パイプあったんだね。事前にもっとくまなく見とけばよかった」 どうしよう。なんとか勝たなきゃ。もう先は無い。このビルは4階建てだ。 「来るな!」 俺はやみくもに振り回した。後ずさり背中をぴったりと柱にくっつけて、前方に向かって鉄パイプをぶんまわした。 しかし見えてる方と見えていない方の差は大きい。手に衝撃を受け、俺は鉄パイプをたたき落とされた。 そして足のスネを思い切り打たれた。 「あああああ!!」 あまりの痛みに床に転がる。骨が折れたみたいに痛い。 暗闇の中のたうちまわっていたら、美貴がゴソゴソと何かをしている音が聞こえる。 (なんだよ。なにしてるんだよ) 得体の知れない恐怖が己を襲う。しばらくしてから美貴のうっとりしたような声が聞こえた。 「これでずっと一緒だよ」 美貴が俺に近寄ってきて、顔に触れた。 俺はこれ以上無いくらいに目をギュッとつぶって叫んだ。 「嫌だ! 触るな。消えろ! ……死ね!」 ふいに美貴の手が俺から離れた。そして一言。
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