1人が本棚に入れています
本棚に追加
/45ページ
そんな俺にあいつはじれったさを感じたのだろう。
あいつは俺にある人を引き合わせた。
憧れの人の言葉があれば、俺が気持ちを変えるとでも思ったのだろう。
安い居酒屋には似つかわしくない、雲の上の人が現れた。
2年ぶりに会う、園山健だった。
こんな大先輩を呼び出すなんてなに考えてるんだと思い最初は怒っていた俺も、久々に憧れの人と言葉を交わせてどこか舞い上がってたんだと思う。
酒の力もあってか、俺は健さんにまで今の自分の話をした。
そして本当の気持ちも言った。
本当はまだドラムをやりたい。
でも、家族がいる限り叶わないかもしれない夢にいつまでもすがることはできないと。
健さんはなにも言わず、俺の話を聞いてくれた。
帰る頃には俺はすっかり酔ってしまっていた。
酒の力がなきゃ本音なんて言えなかった。
別れ際、頭を下げる俺に対して健さんはこんなことを訊いてきた。
『君は、うちのバンドのことが好き?』
たぶん俺は、当然ですとかそんなことを言ったんだと思う。
健さんは笑って『ありがとう』と言った。
それから半月後、俺は健さんの訃報を聞いた。
最初のコメントを投稿しよう!