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「…俺、さ…」
俺が口を開こうとすると、まきが人差し指を俺の唇にあてて止めた。
全部わかってる、というふうにまきは微笑んでいた。
俺はその日泣いた。
まきの前で泣くのは初めてだった。
俺は自分で自分の気持ちがわからなくなっていたんだ。
あの人の弟が現れて、やっと本当のあの人の後を継ぐ人が現れた。
あの人だってこうなることを望んでいたはずだ。
でも、あの人は自分に残された時間では、弟が自分の人生を選択できるくらい大人になるのを待てないとわかっていた。
だから、俺をその"つなぎ"に選んだんだ。
それでも良かった。
それでも、あの人に認められたことに違いはなかったから。
…それなのに…。
まきとほのかのために、夢を諦めた俺はどこに行ったのだろう?
俺は、いつの間にかひどく欲張りになっていたようだ。
ここにいたいと思っている自分がいた。
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