1 帰郷

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「あ!」 青年は突然、何かを思い出したかのように素っ頓狂な声をあげる。 「おしっこしたい……やっぱ大きい方だ。うぉぉぉ漏れる! もうここに出しちゃう!」 身を捩り最後の足掻きを見せるが、衛兵は口を一文字に固く閉ざしたまま、黙然と歩き続けた。 青年はそれからも駄々をこね続けたが、感情を持たない、慈悲もない、鉄製の手錠が諸手をきつく締め上げ、その冷厳な現実に彼も気がついたようで、それからはブスッと不貞腐れるも一言も喋らずに大人しく拘引されていった。 しばらく歩くと衛兵は立ち止まった。 「着いたぞ」 青年が顔を上げると、日光を(いと)うかのように(つた)と苔が蔓延(はびこ)った石レンガの建物が眼に入った。 「ちょ、ちょっとここって牢屋じゃないですか……」 「そうだ。お前をぶちこむ豚小屋だ」 衛兵はそう答えて、じたばた暴れる青年を押さえ付けながら建物に入った。 建物の中は薄暗く何かが腐敗したカビのような()えた臭いに満ち、陽気な表の街並みとは裏腹に、暗澹(あんたん)とした空気がじめっと顔を拭い、殺伐とした冷気が彼の肌を刺した。
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