1 帰郷

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航海の安全を見守るように海に向かって建てられた赤煉瓦造りの瀟洒(しょうしゃ)な倉庫、整然と整備された石造りの家々、勇者シャルケラを讃えた森厳な記念公園、色彩豊かなステンドグラスの色に染まった斜陽が燦然(さんぜん)と輝く礼拝堂、その隣には白化粧を施した大理石の美術館。 それらの細緻を極めた絢爛な建物は、各国から選りすぐった一流の職人達が国を背負い、己の技術と矜持(きょうじ)を競い合うかのように建ち並んでいた。 また殷賑(いんしん)を極めた市場では、大陸各国から集まる生鮮な魚介や野菜や果物、豊富な種類の精肉、異国の珍しい食材などが売られ多様な食文化に寄与していた。 故にそれを目当てに人々の往来も激しい。街は常に数多くの出稼ぎ労働者や観光客や商人などが無秩序にあふれていた。彼らは皆、感嘆の声を漏らし首都ハレスティンをこう評した。 『筐底(きょうてい)の大都市』。 王都ハレスティンを包む巨大な城壁が、まるで街を包む箱のように見えることからそう呼ばれた。実際に、その表現は実に的を射ていた。 周囲を何十キロも張り巡らされた石材の城壁は、天を貫くと思わせるほどに聳え立ち、人々や街並みを静かに見下ろしながら、威容を誇って睥睨(へいげい)している。その光景は壮大で畏敬の念すら覚えるほどであった。
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