1 帰郷

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そんな大都市のど真ん中で、王都ハレスティンの荘厳で美しい景観よりも、とある青年が一際視線を集めていた。 無精な黒髪に襤褸(らんる)のローブを羽織り、眼は鈍い光を宿しているせいか全体的に(ものう)い影を引き連れている。 雑踏に紛れ込めば直ぐに人影と同化して見失いそうなほど存在感は希薄で、ほかにこれといって特筆すべきことはなく、平凡で覇気のない男であった。 しかし、道行く人々は彼に好奇や胡乱(うろん)といった視線を向けていた。 小競り合いによる揉め事や、刃傷沙汰、騒乱といった、都会の喧騒にある程度の免疫がある彼らが、今現在繰り広げられている光景に釘つけになっていた。 青年はセントラル王国の紋章をつけた衛兵の足元で土下座をしていた。土下座事態は往々に見かける普通の光景。だが、綺麗に土下座をする青年の周りは荒れ果てていた。 舗石は陥没し、堅緻(けんち)な建物の一部が崩れ、塵埃(じんあい)がいまだに空気中を舞っていた。そこに普段の街並みの姿はなく、均整のとれた美しい景観は死んでいた。 そんな状況でヘラヘラと軽薄な雰囲気を漂わせ、人々の営みと清澄な街の空気の中で、違和感を覚えるほど青年は浮いていた。 「すみません、すみません……えへ」 先ほどから正座をし顔面を地面に擦り付けながらチラチラと顔を上げ、仁王立ちの衛兵の顔色を窺う。時折、見せる下卑た笑みは、反省の色皆無!
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