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「……痛くしないでね」
この状況下でポッと頬を朱色に染め潤んだ眼で見つめる彼を衛兵は無言で見下ろした。
その表情は無。
流石の青年もふざけている場合ではないと思ったようで、からかいの色が顔から消えた。
「あ…これは冗談で!」
「貴様を連行する」
衛兵は腰に携えてある手錠を青年にかけた。青年は最初、何が起きたか分からないといった表情で、自分にかけられた手錠と衛兵、そしてまた手錠を交互に見つめる。
「……ん?」
次第に状況の整理がつき始めた青年は、衛兵の言葉をしばらく反芻したのち、
「……はぁぁぁぁぁ!」
間遠にようやく理解して、青年の間抜けな叫び声が城下町に響き渡った。
*******
「ママ、なんでお兄ちゃんはお犬さんみたいにお散歩しているの?」
「見ちゃダメよ」
青年は道行く人々の視線を独り占めにしていた。ある母親は幼い娘の顔に手を当てながら、軽侮の視線を送り通りすぎていく。
「なぁーおっさん手錠を外してくれない?」
青年は、手錠に繋がれている鎖をジャラジャラと鳴らし、衛兵に拘引されていた。青年がいくら話しかけても、衛兵から返ってくるのは無のみ
ようするに何も返ってこない。
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