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いつまでも震えが、パニックが、
止まることのない身体に心が、限界を迎えて。
「あああぁっ…」
もう一度、闇の中へ沈みこもうとした身体。もう落ちたくない、と天へと伸ばした手は
「おいっ、」
暖かな体温にすくい上げられる。
それは、さっき真っ暗闇に落ちる前に嗅いだ仄かな香水の匂いに似て。
引き上げられた意識と共にまた、苦しみが襲いかかる。
「やだ…いやだっ、こないで…!助けて!こわいっ」
怖い、何もかも。すべてが。
でも助けて欲しい、
一人にしないで欲しい。
手に伝わる暖かい温もりを手放さない様にその体に必死にすがりつく。
「大丈夫だ、落ち着け。ここには怖いものはない。俺が...守ってやるから、」
夢を...あの真っ赤な唇をみた後は、いつも人が近くにいることが死ぬほど怖いのに何故か今は怖くなくて。
むしろ、縋り付いた身体から仄かに香る匂いを嗅ぐほど心がそっと、静寂を取り戻していく様で。
この状況で1人にされることの方がよっぽど怖く感じる。
名前も、ましてや顔さえ知らない人に縋り続ける。
時間にして約15分。
その間、その人は縋り付いた腕を振りほどく訳でもなく、嫌そうに咎めるわけでもなく、ただ、『安心しろ』と唱え続けて春人の好きな様にさせてくれていた。
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