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「それならば、よかった。
すまない、聞き入った話を聞くが...こういった事はいつも起こるのか?」
顔は見えないものの、心配してくれている様な声。
「...そんなに頻繁には、
でも今日は軽い方ですから」
お酒を視界に捉えてしまっただけで無意識の世界の夢にまで影響して、
これほどまでに取り乱してしまうのは軽い方では無いと皆、感じるかもしれないが、春人にとっては軽い方だとと言う実際のこと。
もっと、重い時にはパニックに陥って、その恐怖と疲労から気を失ってまた目を覚ましてはパニックに陥って…そんな状態が続くこともたまにある。
だから、
「大丈夫です。」
「そうか、」
嘘をいっている様でも無い声に安心したのか、ふっと息を吐くのが分かって、本当に迷惑を掛けてしまったと、心がぎゅっと痛くなる。
「あの、本当にごめんなさい...」
「...構うな、と言っているのに、」
呆れる様な声はどこか、楽しそうな雰囲気も混ざってそのいつまでも他人を気にする様子から要がふっと口角を上げたことに春人は気付かない。
「だって、貴方にたくさん迷惑を掛けてしまったと思うから」
「だったら、そうだな...名前を教えてくれないか?それでチャラにしよう。」
「そんなことで、」
「俺に名前を教えるのは嫌か?」
「そんなわけっ、」
「だったらほら、名前を教えくれ。それで謝るのはもう無し。分かったな?」
「でも...」
「本条 要(ほんじょう かなめ)だ。
君の名は?」
「海崎、春人(かいざき はると)...です」
「はると…。良い名前だ」
そっと、顔を上げると開けた世界には暖かい笑顔が見えた。
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