第1章~出会いの章~

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「できた」 小さく一言ついて、手を止める。 要の希望で作ったそれは所謂、家庭の味というもので。 煮物に焼き魚、おひたしと味噌汁、そしてご飯。 “もう少し、なんか...”と言おうにも よろしく頼む、と頭を下げられては強く断る理由もなくて。 わかりました、と手を進めた。 1人では普段滅多に作らない煮物だから味付けが少し、不安だけれども作ってしまったものはしょうがない、とソファーへ座る要へと視線を向ける。 「要さん、」 「おぉ、できたのか。楽しみだ」 本当に嬉しいそうに、楽しそうに笑うから恥ずかしくなって、不安になって、赤らむ顔を抑えきれずにふいっと顔を背ける。 そんな春人の態度に要が楽しそうに、笑みを零すと ますます顔が赤くなって、誤魔化すように咳払いをひとつ置く。 協力しながら、机の上に食器や今できたばかりの料理達を並べて、一言。 “いただきます” バレないように視線を這わせる。 ーー 「「いただきます」」 手を合わせて、そう声をかけ目の前に置かれた料理の数々へどれに手を伸ばそうかと一瞥する。 目の前に座る春人はいただきますと言ったきり身じろぎひとつせずにバレてないつもりなのか伺うようにじっとこちらを見つめている。 要がこれから話すであろう料理の味の感想を気にするほど好いてくれているという事実は嬉しくもあり、その瞳を見つめ返したいほどだが、気づいてないふりをしてまず最初の一口、 家庭料理の横道、肉じゃがを口へと運ぶ。 「おいしい…。」 本心から不意に溢れた言葉。 期待はしていたものの、久々に食した手料理に心が満たされていくように感じる。 「美味しいよ、春人。」 その瞳を見つめ返すと ほろり、ほろり、と溢れる涙に目を見張る 「はる…?」 「すみませ、、、ごめんなさい… とっても、嬉しくて 誰かに褒めてもらうのは初めてだったから…」 春人の境遇を聞いたことはない。 それでも、この数ヶ月接していくうちに何かを抱えていることは充分に感じ取れた “美味しい”とその、たった一言で涙を伝わせるほどの何かが春人にはあって いつか、その全てを一緒に背負いたいと そう思っては止まないから 「君は、本当に泣き虫だな…でも そんな君が、俺は好きだよ」
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