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『春人、ちょっと待てって春人
悪かったって、』
『そんなこと言うなよ、一時間だけだって。』
『春人、おまえ』
瞬の声に混じって、どこからとも無く聞こえるヒット曲の数々
捕まれた腕の強さ、温かさ。
カラオケの部屋の前、引きとめようと捕まれた腕に紡がれる言葉。
聞きたくない、
その先は聞きたくないのに。
いくら振りほどこうとしても瞬の腕はびくともしない。
『おまえ…』
やめて、
『“きもちわりぃよ”』
蔑(さげす)んだ目、動いた口が
記憶の中の真っ赤な唇と重なる。
「…ぁぁぁああああぁぁ!」
自分の声で飛び起きた身体。
春人自身には見慣れない景色で有りながらパニックに陥った状態ではそれすらも気付くことが出来ずに。
嫌だ、助けて、怖い、やめて
逃げなきゃ、隠れなきゃ、ごめんなさい、ごめんなさい
ガタガタと震える身体を春人自身抱きとめ様にも抱きとめる腕すら激しく震えて。
夢だ、もう怖くない、瞬はあんなこと言わない、分かってるのに
こわい
現実との境目がわからなくなる。
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