ウサミ

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ー私はもう涙を流すことすらできないー 私はこの瞬間が一番嫌いだ。 私の名前が黒板に書かれた瞬間、あちらこちらからクスクスと笑う声が聞こえる。 「はい、静かに!笑わない!」 担任の女性教師が眉毛を釣り上げてもちっとも迫力は無かった。 黒板には、美しい文字で「宇佐木 美々」と書いてある。 「うさぎ びび?」 男の子がすっとんきょうな声で言うと、みんながどっと笑った。 私の耳は真っ赤になり、俯いてしまった。 「違います。うさぎ みみさんです。」 そう言うと、ますます男の子を中心にどっと笑い声が起こった。 「静かにしなさい!何がおかしいの?今日からこのクラスの仲間です。仲良くしてくださいね。」 担任がヒステリックに怒る。 いいよ、先生だってきっとへんな名前だって思ってるんだから。 本当に、お父さんもお母さんもなんでこんな名前を私につけたんだろう。 父親が転勤族のせいで、3度目の転校初日だった。 前の学校でもさんざん、この名前でからかわれたし、容姿も美々という名にはふさわしくないし、 父親に似て、背も高かったので、少し前に流行った巨人の出るアニメが始まった時には、 随分とからかわれたものだ。 口だけではなく、陰湿ないじめも受けた。上靴を隠されたり、ランドセルに草をいっぱい詰め込まれたり。 その度に私は、お友達のウサミに相談したのだ。 「ウサミ、どうして私は苛められるんだろう。」 ウサミは、私が6歳の誕生日の時に、お父さんがプレゼントしてくれたウサギのぬいぐるみだ。 ウサミは、真っ白でフワフワで、長い耳の中だけが薄いピンク色だ。 辛いことがあると、私はいつもウサミに話した。 お父さんやお母さんに話して、悲しませたくなかったのだ。 お父さんもお母さんもきっと転校ばかりさせて、私が辛い思いをしているのではないかと、心配しているに違いないのはわかっているから。 「なあ、宇佐木!お前の耳ってやっぱ、うさぎみてえに長いのか?」 ニヤニヤしながら、見知らぬ男の子が声をかけてきた。 頭が悪そうだ。一番嫌いなタイプ。 「バッカじゃないの?くだらない。そんなわけないでしょ?ねえ、宇佐木さん?」 隣から尖った女の子の声がしたので、驚いて私は顔を上げた。
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