芽生える

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 だからといって、全てをさらけ出せるわけではもちろんない。  父の不倫も、家庭が冷えきっていることも何も話してはいない。  話せるわけない。こんな真っ黒い感情を。 「大丈夫だよ。でもありがとう、泉」  いつものように笑顔を作れば、素直で可愛い泉はほっとしたように微笑む。 「また明日、学校でね」  上りのホームへ向かう階段に消えていく泉を見送りながら、わたしはどうしようもなく沸き上がる苛立ちを噛み殺した。  何度思い出しても腹が立つ。  もう母のことなど忘れたような顔の父。  わたしたちから盗んだ幸せを、当然のように謳歌する女。  そして、何も知らない異母弟(おとうと)。  両親に愛されて、自分の罪深さも知らないから、ヘラヘラと笑っていられる。それが憎い。  ――いっそ、壊してやろうか。  不意に浮かんだ考えが、何故かとても魅力的に思える。  どうして今まで思いつかなかったのか。  もっと早くに、そうすればよかった。  わたしにはその権利があるのだから。
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