狐と狸の入学

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 氷河期が到来するんじゃないかと思うほどに寒かった冬は終わり、それほど積もってもいなかった雪はもうすっかり溶けた。季節は移り変わり、桜の花が春の空を彩っている。  今日は高校の入学式。おれはいま、電車に揺られている。電車の進むリズムは最も睡眠に適していると言うが、大変残念なことにおれは眠くならない。  昨日は一睡もできなかったし、目的地は電車で一時間ほど掛かるため朝は早く、現在時刻は七時を回ったところだ。……正直寝たいが、さっきから自分の心臓の脈打つ音が大きすぎて眠れない。  普通の人はおそらく、高校入学如きでここまで緊張しないだろう。  何故おれはここまで? 地元を飛び出して見知らぬ地に行くからか。はたまた誰もおれを知る者がいないからか……いや、こっちは違う。自分を知る者がいないから、おれはわざわざ一時間以上かけて他県の学校に通おうとしているのだから。  答えは最初から明々白々だった。小学五年生の二学期から、約四年振りの学校だからだろう。おれが不登校だったから、親は片道千円を超える通学を許してくれた。  それで学校に通えるのなら安い話だ。……という感じである。  おれは入学するにあたって、心に固く誓っていることがある。それは、絶対に小学生のころの過ちをくりかえさないということだ。  絶対に、謎やトラブルを見つけても、大衆の面前で朗々と推理を述べる――すなわち解決編は行わないと。  おれは普通の青春を送りたいんだ。普通に友達と遊び、普通に部活に励み、普通に片思いをして、その思いを誰に伝えるでもなく卒業式まで持っていく。……そんなありふれた高校生活を送りたい。  部活で全国大会を目指すなど言語道断。美少女転校生と両想いになることも、お涙頂戴の青春イベントに巻き込まれることは絶対に避けなければならない。とにかくトラブルに巻き込まれそうな予感がすることからは、できる限り遠ざかりたい。  何故かって? トラブルがあると解決したくなるからだ。  おれはいま緊張五十パーセント、期待二十五パーセント、不安二十五パーセントというなんとも微妙な心境だ。  果たして友達はできるのか、女子に片想いできるのか、まず人とコミュニケーションを取れるのか……。  考えれば考えるほど不安が増し、緊張との割合が逆転したように思えた。
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