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その紙ひこうきを見ながら、老婆はふと思う。
こんなお遊びのような事でも、もしもできるのなら、誰かの大切な人に届いて欲しい。
自分の大切な人は、もういなくなった。
夫は随分前に先立った。一人息子は、その夫と家業を継ぐか否かで喧嘩別れして上京した。こちらに戻る気配どころか、顔を出す気配もない。それでいいと思っている。風の噂を聞けば孫ができているらしいが、その顔を見れないのは残念だが。
老婆は紙ひこうきを飛ばす。
『大切な人のところまで飛びます』
見えない風に乗るかのように、紙ひこうきは優雅な軌跡を描いて空へと飛び立つ。
老婆は少しだけ唖然としながら、しかし小さく笑った。
本当に、飛んで行くかもしれない。
どこかの誰かの大切な人のところまで。
運が良ければ、自分の大切な人のところにも。
…………
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