紙ひこうきの見た世界

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      …………  今日は忙しいのかもしれない。  いつもの朝の時間。いつものように、いつもの公園のベンチで座る幼い少女は溜め息を吐く。  この場所でいつも出会える、どこかのんびりとした雰囲気の優しい女の人。一緒に散歩をしたり、お話をしてくれる人。  たまに忙しい日があって、そういう時は会えない。  だから我慢しないと。そう思いながら、幼い少女は少しだけ躊躇いつつもベンチから腰を上げる。  幼い少女は待機児童だった。  父親はいない。母親は、朝早くから働きに出ている。家はすぐ近くのマンション。  近所の人達は優しくしてくれるが、しかし一緒に遊んでくれる友達はいない。周囲の大人が優しくしてくれる理由が同情からだという事にまだ気付かないのは、幼い少女にとって幸運なこと。  あまり外に出ちゃダメ。家の中でお勉強してなさい。  そんな事を言われても、そんなのは退屈すぎる。  どうしようかな、などと思う幼い少女の足元に、滑り込むようにして何かが落ちた。  危うく踏み潰すところだった足をよけると、それは紙ひこうき。  なんだかかっこいいかたち、と幼い少女は思う。さきっぽだけあかい色がついている。  それを拾い上げ、どうやって折ったんだろうと何となく開いてみる。   『大切な人のところまで飛びます』  何て書いてあるんだろう、と幼い少女は首を傾げる。ひらがなだけを読んでみても意味は分からない。  よく分からないけど、元に戻そう。そう決めた幼い少女は元通りに折り畳もうとして、愕然とする。  どうやって折ってあったのか分からない。  少し涙ぐみながらおろおろとすること数秒、不意に頭の隅に天啓。  それはよく行く、近所の駄菓子屋さんのおばあちゃんから教わった知識だった。紙ひこうきの作り方。そんなに難しくなかったはず、とどうにか思い出そうとしながら必死に紙を折る。
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