第1章

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「うーん、先生、このテリーヌ最高です」 銀座の超高級三ツ星レストランである。 今回一番の功労者だということで、先生の奢りで高級フレンチのご馳走になっていた。 私は部屋の片づけも無事に終え、そこで久し振りにお目見えしたプラダでドレスアップだ。 型も古いし私には少し派手かと思ったが、ときめくんだからいいのだ。 片付けのカリスマもそう言ってる。 「そりゃよかった」 無駄にイケメンな先生は、細身のアルマーニでキメている。 悔しいがカッコいい。 「先生、本名タカシっていうんですね」 「そうだけど?」 「ぶふ、10才下のうちの弟と同じ名前です。次々に吹き出すニキビが目下の悩み事」 「うわ~、聞きたくなかった~」 「あはは」 「でもさ、あそこで子ども用のビニールプールを出すとは、さすがの俺も思わなかったな。なんでビニールプールなの?」 不思議そうにそう聞かれて、あの時のことを思い出しながら答えた。 「それは……、プロのレスキュー隊が使うあの巨大なエアマットはテレビでしか見たことないし、それならプールだと思ったんですけど、大きすぎてダメだと思ったので、あいだを取って子ども用ビニールプール? ほら、水と空気の両方で受け止められますし」 「……なるほど。なんで水と空気の両方必要だと思ったのか謎だが、俺なら、布団とかマットレス百枚にするな」 「ああっ!」 私には思いもよらなかった先生の理にかなった考えに、思わず声が出た。 「由布子が助かったのは本当に奇跡だな……」 「すみません……」 思わずしょんぼりと肩を落とした。 「……でもまぁ、さっきは布団なんて言ったが、正直俺はあの時、あいつをやっつける武器があればとしか思わなかった。でもキミは、人の命を救うことしか考えなかった。その優しい発想が、結果的に由布子の命を救った。キミは彼女の命の恩人だ。このことを俺しか知らないことが残念だが、彼女に代わって礼を言うよ。ありがとう」 先生が深々と私に頭を下げた。 「どどどど、どーしたんですか、先生! やめてくださいよ!」 常にない先生の様子に、私は大いに戸惑い、思わずワインをがぶ飲みしてしまった。 ドラマの中のようなこのシュチュエーションも相まって、頭がクラクラする。
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