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「ふーん、見た感じ、古い和紙の切れ端にしか見えないけどな」
そう言いながら、私が持ってきたハガキ大の黄ばんだ紙をためつすがめつしているのは、新進気鋭の独身売れっ子作家、結城(ゆうき)ススムである。
私は半年前から、彼の担当編集をしている。
無駄にイケメンだが、性格が悪いのが玉にきずだ。
それはともかく、さっき刷り上がったばかりの先生の新刊を届けに来たついでに、私は一週間前に起きた我が家での不思議な出来事を話してみた。
色々考えあぐねた結果、この何の変哲もない黄ばんだ紙が原因だとしか思えなかったのだ。
これがなんなのか、先生に聞いてみたいと思った。
「うーん、なんだと思いますかって言われてもなぁ。どこにあったの、これ?」
「たぶん、私の部屋のどこかにあったんだと思うんですけど、大掃除の真っ最中だったので、どこから出てきたのか全然わかんないんです。他にも似たような紙がないか探しましたけど、それだけでした」
「キミんち、確か何世代もそこで暮らす古い名家の地主なんだっけ?」
「名家かどうかはともかく、古いことだけは確かです。地主ったって、戦後土地を切り売りして糊口をしのいだらしいので、土地は家だけですし」
「でもまぁ、イマドキ都内に百坪もあれば十分資産家だろ。男運悪いくせに、意外とお嬢様なんだよね、キミ」
「男運悪いは余計です! それより……」
「うん、これね。要するにキミはこれが、書いたものを実在化させる魔法の紙だといってるわけだ?」
「ええ、まぁ……」
「ま、百聞は一見にしかずだ。試してみてもいい?」
先生がペンを手に紙を掴んだ。
「いいですけど、意外にコツがいります」
「コツ?」
「まあとりあえず、以前失くしたっておっしゃってた、お気に入りの万年筆なんかいかがです? できるだけ詳しくそれを紙に描写してください」
「わかった」
先生は珍しく素直に私の指示に従って、意外な達筆で紙にサラサラとかつて失くした万年筆を描写する。
「書き終わったら、一旦紙をポケットの中やバッグの中にでも仕舞ってください」
先生はワイシャツの胸ポケットにメモを仕舞った。
「なんで?」
「なぜかジッと見てるといつまでも実在化しないんです。なにかに仕舞わなきゃダメってわけでもないんですけど、目を離した一瞬の隙狙ってきます、それ」
「へえ……」
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