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三分ほどして、先生が胸ポケットからモンブランの黒い万年筆をつまみ出した。
「俺のだ……」
自分の銘が彫られた軸をしげしげと眺めながら、先生が驚きに目を見張っている。
「信じられない……。十年前に旅先で失くしたんだ」
他にも色々実験し、本やグラスや季節外れの果物をテーブルの上に次々に現すと、先生は深く長いため息をついた。
「まさに奇跡だね。で、他にわかったことは? キミも色々やってみたんだろ?」
もちろんだ。
この一週間で、私に分かったことは以下の通りだ。
★現れるものは、現実に実在するモノであること(ただし、生き物は不可)。
★紙に書いた人が、実際に目で見たものでなければならない(ただし、家や土地のように、あまりにも大きなものは不可)。
「見ただけでいいの? 例えば、写真やテレビに映ったものは?」
「あ、テレビや写真はダメです。生で見たものじゃないと」
「なるほど」
「まぁ、十分な検証とはいきませんが、あまり極端なものは下手に試せませんし……」
「確かに……」
「書かれたモノが実現すると文字が消えますが、実現化しなくとも、文字は一日ぐらいで消えてしまいます。それに、案外細かく描写しないと、お砂糖やシラタキみたいに、袋やパッケージなしで直に出てくる場合もありますし、案外使い方が難しいです」
「ああ、だから俺にも詳しく描写させたのか」
「そうです」
「で、当然、お金は試してみたんだろうね?」
「それなんですけど、ちょっと保留中です」
「なんで? せめて、元カレに持ち逃げされた貯金分だけでも取り戻せば?」
「そ、その話は忘れてください!」
以前、うかつにもうっかり喋ってしまった自分が憎い。
その時、「失礼します」と、盆にアイスコーヒーを二つ載せて、部屋に入って来た女性がいた。
「楽しそうですね」
30代半ばぐらいのスラリとした美人だ。
何も聞いていない上に初めて見る人だったので、驚いてポカンと見惚れてしまった。
「あ、ご挨拶が遅れました。私、篠田由布子と申します。いつも結城がお世話になってます」
私が慌ててアワアワ挨拶を返すと、笑顔で「では、ごゆっくり」と優雅に部屋を出て行った。
「先生! いつの間にあんな美人の奥さん貰ったんですか!?」
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