不幸の三徴候

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しかし……その期待は見事に外れた。 帰宅した息子の右膝を触診するなり、龍二は首を横に振ったのだ。 「ダメだ。骨と骨を繋ぐ靭帯が切れたことで、関節の安定感がまるでない。これじゃ、どうにもならん」 「……ウソだろ?」 治療室のベッドに仰向けで寝ていた光輝が、慌てて上体を起こす。 猛暑の影響だろうか。 待合室にも、他の患者の姿は無い。 「まだ時間はあるんだ。毎日治療して、テーピングでガチガチに固定すれば、何とかなるよな?」 その問いに返事はない。 龍二は黙ったまま患部に冷湿布を貼り、その上から包帯を巻いている。 接骨院には時計の針が刻む音と、苛立ちを隠しきれない光輝の声が響いた。
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