鱗粉と呪い

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 鱗粉を剥がされながら、蝶は間もなく暴れはじめた。寝かせてやった植え込みの中からも何度も飛び出し、その近くを人の足が踏みしめる。その度にすくい上げては戻す。草の上で蝶が暴れている間に、指に貼りついた鱗粉をこすると、黒い柱のような結晶はくだけて、肌に刷り込まれるように余計にこびりついた。その間にまた植え込みから飛び出す。蝶を戻してまた指をこする。またすくう。  それを繰り返して何度目かに、ふいに蝶の羽が舞った。あ、と思った瞬間、手の中から蝶が飛び立っていった。  呆気にとられて見送る。普段見かける黒揚羽の優雅で不規則な飛び方からは想像もつかない速さで、蝶は去った。  帰りの電車に揺られながら、指を見る。水で洗っても、鱗粉はまだ、指にこびりついていた。ふと気になって、スマートフォンを取り出し、黒い指で検索をかける。  鱗粉のはたらきに行き着いた。蝶の羽に雨がしみると、蝶はとべなくなってしまう。そうならないよう、鱗粉が水を弾いているのだという。  次の雨はいつだろう。黒い指をいくらこすっても、蝶の色は落ちなかった。
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