第1章

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その茶碗は、茶碗と呼ぶには大き過ぎた。 ちょっとしたボウルレベルの容量を誇るその皿は 堂々「茶碗」という名を冠して、スーパーの雑貨エリアに売っていた。 大きさの割には、繊細な白い肌。 ちょうど、陶器の、且つ大容量の器を探していた私は 300円でその器を購入した。 家に帰って、テレビをつけた。 『今話題のラーメン店一挙放送! なんとテレビ初登場のあの名店まで!?』 いいなーラーメン。あー豚骨いいよね美味しいよねー。 まだインスタントラーメンあったかなー。 戸棚を漁りながら、そういえばさっき買った茶碗はラーメンを食べるのに手頃な大きさだと気付く。 この器を早速使おう。 そう思いながら鍋に水をはり、コンロにかけた時 どこからともなく豚骨の匂いがしてきた。 茶碗だ。 茶碗にラーメンが並々入っている。 しかもインスタントラーメンでなく、今まさにテレビで紹介されていた商品そのものだ。 驚き、茶碗の肌に触れてみる。温かい。 驚きながらも、箸をつけてみる。 美味い!!!!!!!! よくわからないし怪し過ぎるけど美味いのだ。 夢かもしれない。でも何でもいい。 私は茶碗のなかのラーメンを食べきり、明日の会社に備えてとっとと寝た。 その夜から、夕食を家で取るときは茶碗が全て用意してくれた。 食事のタイミングでテレビで放送されている料理が茶碗にわくことが多かったが、 食べたいと思ったものであることも、少なくなかった。 働き過ぎておかしくなったのだろうか、と思うこともあったが 食費が浮くこと、そして何より美味しい食事にありつけることが 疑問や気味の悪さを考えるより、よっぽど大事だった。 そんな生活を送っていたある日
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