◎月10日

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 帰宅すると、あいつが植木鉢から落ち掛けていた。しかも頭から。 「ちょっ、うわ、危なっ」  焦りつつもあいつの首根っこをつまみ上げれば、寝息のような音がかすかに聞こえる。  寝相の悪さから、危うく落ちるところだった。 「……埋めとくか」  とりあえず、手で軽く土を掘り、こいつをそこに寝かせて上から土を被せて埋める。これなら寝相は関係ないだろう。  前にしばらく埋まっていたこともあるし、きっと土の中でも生きられるはず。 「皿は、空か」  睡眠欲と食欲は旺盛なようで、安心と同時に呆れた。後で皿には水を汲んでおこう。そう決めてオレは、部屋からあいつにちょうどいい何かを探し始める。  曖昧な探し物のため、これといった何かはすぐには見つからなかった。 「……なんだこれ」  それを見つけたのは、二十分は優に越えた頃。懸賞品の一つだろうが、あまり記憶にない物だった。というか用途が分からない。 「大きさはちょうどいいし、置いておくか」  未だに土に埋もれているあいつのそばに、それをちょこんと置いておく。  こいつが動く気配はなさそうだったから、多分まだ眠っているんだろうと決め付けて、オレは今日の宿題を片付けることにした。 「しっかし……何の懸賞だよ、これ」  ペンを動かしながら、植木鉢に乗せられた謎の置物を見る。  水色の小さな羊の置物。その羊もまた、眠っているポーズをとっている。 「似てて面白いけどさ」  その後、夕飯から戻ったオレの目には、床に転がった羊の置物と、植木鉢の縁からそれを見下ろすあいつが映った。 「落としたのか」  ひょいと羊を拾い上げ、こいつの目の前で揺らす。一瞬びっくりしたように後ずさったが、それもほんの一瞬で、こいつはすぐに羊に抱き付いた。  こいつも羊を自分と似てると思い、シンパシーを感じたのだろうか。 「ほら、もう落とすなよ」  植木鉢の上に羊ごと下ろせば、こいつは楽しそうに羊にまとわりついている。床を見れば、少し離れた所にスーパーボールが落ちていた。そういえば帰った頃にはもうなかったな。 「お前、物を落とし過ぎだろ」  スーパーボールを拾うために立ち上がる。二、三歩進んで落ちたスーパーボールを掴めば、背後からカコッと軽い音がした。 「…………」  振り返れば、床に落ちた羊を、あいつが植木鉢の縁から見下ろしている。  溜め息を吐きたくなった。
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