◎月8日

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 ガサゴソという音で目が覚めた。手探りで目覚まし時計を探り当てて見れば、まだ起きるには早い時間。 「豆腐屋なら…じゃなくて」  一瞬思考が訳の分からない方向に持って行かれたのを引き留めて、目をこする。  今日は休みだ。ついでに親も仕事に忙しいようで、部屋の外から声がしなかった。  そう考えて、オレは起き上がろうとする体勢でぴたりと固まる。……あ、この姿勢辛い、背中つる。  ばふっと布団に舞い戻り、今気付いた違和感を口に出す。 「親も誰もいないはずなのに、なんで物音がするんだ…?」  口にしたらしたで、背筋が寒くなった。泥棒ならともかく、強盗だったらどうしよう……とか色々考えてから「よし」と気合いを入れて布団から起き上がる。 《ガサガサ》  物音は机の上から聞こえる。…机の上? 「……はっ?」 《ガサゴソ…ガサッ》  机の上……正確には植木鉢の上に、小さな人影があった。その人影と目が合い、互いに固まった。  ちょっと待て、一旦落ち着いて現実を見よう。  植木鉢の上で何やら動き回っている何か。昨日植木鉢には懸賞品の種を置いていた。この二つから導き出される答えは……。 「説明書っ!」  解んなかったので説明書を手に取った。 説明書を読んだ結果、答えが導き出された。 「…えーっと、つまり…こいつが小生物?」  ジッ、とオレに見つめられたままのそいつは、最初に固まった状態でずっと植木鉢の上にいる。ちゃんと手足もあるし、目も耳も二つで、口も一つ。服も着ていて、オレみたいな人間と変わらない。  違うとすれば、大きさだ。植木鉢の上に普通に収まるサイズ、説明書によると十センチくらい……なんだろうな。  ひょいとそいつの首根っこをつまんで持ち上げれば、じたばたと暴れ出した。……和む。  そっと植木鉢の上に戻すと、そいつは土を掘って自分から土の中に埋まった。警戒されたか? 「そういえば…こいつの餌ってなんだったっけ…?」  確か朝昼晩あげるはずだったような気がする。説明書をぱらぱらとめくり、それが水だという答えに到達した。これって植物育てるのと大差ないな。 「そうだ、小さいジョウロが台所にあったよな…多分」  植木鉢にはしばらく変化が見られそうになかったから、オレは台所に行ってお目当てのジョウロを手に入れ、そのまま水道水を汲んで部屋に戻ってくる。  戻ってきても、植木鉢は一ミリも変化なしだった。
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