◎月9日

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 朝。直射日光は避けるように説明書に書かれていたので、カーテンは閉めたまま……要するに暗い。机の上にある植木鉢に直射日光が当たらないよう配慮しつつ、カーテンを開ける。  それからすぐにジョウロを持って、台所で水を汲む。あいつの朝食用の水だ。  あいつはまだ植木鉢の隅でぐっすり眠っている。スーパーボールは床に落ちていたが。おそらく寝相が悪いんだろうな、あいつ。 「お、落ち、て……ない?」  ジョウロを水でいっぱいにして部屋に戻ると、植木鉢から緑色の何かがはみ出していた。何か……というか、あいつだった訳だが。  あいつは、植木鉢の縁にうつ伏せになっていて、落ちないのが不思議なくらいだった。さながらやじろべえのように、ゆらゆらと縁で眠っている。 「いや起きろよ!」  首根っこを掴んで植木鉢の中央に軽めに投げつけ、ジョウロでそいつの頭に水をかけた。  さすがに起きた。ふてくされながら。  こいつがふてくされてるのはそれはそれで面白い。だが、残念ながらオレはこれから学校で、こいつの昼食時に水をやれないという問題が発生している。 「さて、どうしたものか……」  あげない、というのはさすがに可哀想だ。オレはこれからまた連日学校だし。というかさっさと考えないと、あげないという選択肢になってしまう上に学校に遅刻する。  ふと机を見ると、空のペットボトルが落ちていた。捨てるのを忘れて置きっぱなしにしていたようだ。  ……あ、これ使えるんじゃないか? 「これで、どうだ?」  カッターでペットボトルの底の部分が器のみたいになるよう切り、そこに水を入れる。切り口が斜めったが、気にしてる時間もろくにない。  即席の皿が出来上がった。それを植木鉢の隅に置いてから、時計を確認する。目を輝かせて皿を見るそいつを気にかける余裕も時間もない。  何せ今から準備をして家を出ても、半分の確率で遅刻になってしまうからだ。 「これ、昼の分だからな」  こいつがちゃんと言葉が理解できるのか分からなかったが、色々とそれどころじゃない。  遅刻だけはなんとしても避けたいオレは、自分の朝食も支度もそこそこに、自転車に飛び乗って家を飛び出した。  普段は通らない、通りたくない道も、構わず自転車で走り抜ける。事故だけは起こさないように気を付けて、オレは学校へと急いだ。 ……あ、カーテン閉めてくるの忘れてた。大丈夫かな、あいつ。
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