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交差点
キキーーーーッ!
ドーーーーーーン!!!!
響いたブレーキ音を打ち消すように、大きな衝突音が聞こえた。
またか。そう思いながら窓を開け、外を確かめると、近所の交差点内に二台の車が見えた。
俺が暮らす五階建のマンションから、僅か十メートルばかりの位置にある交差点。
交わる道はどちらも大通りと呼ぶ程の規模ではなく、通勤の行き帰り時刻は多少は混むが、他の時間帯の交通量はむしろ控えめだ。
そこそこの高さの建物が近くにあるとはいえ、交差点自体は見晴らしがよくて、普通に考えたら事故なんて起こる場所じゃない。
だけど事故は頻発する。当然のように警察が原因を探る。でも理由はまるで判らない。
まあ、判らないだろうな。あの場で原因を探してる限りはね。
五階から交差点を見下ろせば、交差点に浮かび上がる文字。
横断歩道にセンターライン、サイドライン、それらの濃さ薄さの具合でできた、たった一言の漢字。
呪。
あまりにも事故が頻発する交差点だから、不吉な印象が俺の中に根づいてた。だから線のかすれ具合の中にそんな文字が見える気がした。
人に話しても信じちゃもらえないだろうし、そもそも俺だってばかばかしい目の錯覚だと思ってる。
でも、衝突音で事故の発生を知り、交差点を見るたびにいつも思うんだ。またあの位置だと。
車もバイクも自転車も、人間ですらみんな一緒。事故が起きるのは必ず『呪』の文字の上。交差点にどの方向から侵入してきても、事故が起こるのは必ずその一点で。
さすがに警察に話すべきか? でも、信じてもらえるとは思えない。
ラインはどこもかしこもかすれてきてるから、そろそろ文字は認識できなくなりそうだし、あれならその内、新たに線が引き直される可能性が高い。
多分何かの偶然だから、それまで待って、やっぱり気のせいだったと思いたい。でも、気のせいじゃなかったら? その場合、俺は、それを口にしてしまってもいいんだろうか。
高みから見下ろす事故現場。俺だけが気づいているらしい不吉な文字は、今は、砕けたガラスと金属片、そして流れた血痕の下。
交差点…完
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