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「結婚指輪って、呪いみたいなもんだと思うんだ」
大学近くにあるファミレスで、うんざりするくらい鋭い日差しに左手を翳しなから、天城はそう言った。
「呪い、ですか」
「そう、呪い」
ガラスの向こうで汗だくになりながら歩く人たちを横目に、天城が左手薬指を右手で撫でる。
手のひら側から薬指の根元、関節、指先と順に撫で上げる様は、誰に見せつけているのか、えらく官能的だ。
「夢見てる人に殺されますよ」
榊はそんな天城に息を吐いて、興味がなさそうにアイスコーヒーの氷を突っついた。
カラカラ音がなって、黒い水面がゆったりと荒れる。
「夢見てる奴だって、何年かすれば分かるよ」
「はぁ」
結婚どころか彼女もいない天城に、どうしてそんなことが言えるのか。
榊は疑問とつまらない不満を曖昧な相槌で誤魔化して、白いストローの先に歯を立てた。
小さな円が潰れて、ぺたりと一本線になる。
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