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「俺ほら、配達業のバイトしてんじゃん」
「はい」
ようやく左手を下ろした天城が、オレンジソーダの底に溜まった甘い液体をストローでかき混ぜる。
ふわりと泳いだオレンジが、透明に混じって綺麗なグラデーションを作った。
「自分ん家以外の家庭っていうの? 見たりするわけ」
「悪趣味ですね」
「覗いてんじゃねぇよ。雰囲気とか空気とか、そういうのが見えんの」
「はぁ……で?」
うんと頷いた天城が、オレンジソーダを吸い上げる。
天城の唇には、女とは違う艶かしさがあるように思う。口元にあるホクロのせいだろうか。
榊は焦らされていることを知りながら、そんなことを考える。焦れて急かす様を揶揄いたい天城としては、あまり面白くない反応だった。
「仲良いとこばっかじゃないんだよ。喧嘩中とか、嫁に逃げられたとか。まぁ、そんなに多くはないんだけど」
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