結婚指輪

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逃げられるなんて、フィクションだと思ってた。 常に無感情の顔に驚きを見せた榊に、天城が満足そうにその綺麗な唇を綻ばせる。 実際は、眠そうな目が少し開いた程度の変化だったけれど。 「それでもその人たち、みんな指輪してんの。デザインとか色とかそれぞれだけど、左手の、薬指に」 「結婚指輪、すね」 「1番びびったのは、90過ぎたばあちゃん」 「90?」 そう、と、天城が誇らしげに頷く。 ようやく榊が食いついてきたことが、嬉しくて仕方がない様子だった。 「しわっしわでさ、骨と皮だけで出来てるような風貌に、不釣り合いなくらい綺麗な指輪がはまってて」 金色の、綺麗な指輪。 天城には今、その光景が見えているのだろう。 瞳の奥にきらりと指輪の輝く色が見えるようだ。
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