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「俺その時に、あぁ、呪いだなって思ったんだ」
「指輪が?」
「だってそうだろ。自分は死んでんのに、こいつは俺のものだって、世間に言い続けてんだぞ。ばあさんもそれが分かってるから外さない。私はあの人のものだって言ってた」
「……それで、呪い」
天城が声もなく頷いて、からりと氷を混ぜる。
「人生でたった1人のやつに縛られる、それが結婚だって。ばあさん、幸せそうだった」
榊には天城の見た光景は分からないけれど、あの天城がこんなにも羨ましそうに語るのだ。
きっと本当に、綺麗なものだったのだろう。
榊は氷で薄まったアイスコーヒーを喉に流して、そっと左側の荷物へ手を伸ばした。
「あーあ」
天城が大袈裟に息を吐く。
反射的にびくついた榊を無視して頬杖をついた天城は、左手を目の高さに掲げて、悩ましげな顔をした。
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