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「終わったから帰れ…って、言うと思う?」
「………………」
「明日は休みだから、好きなだけいていいよ」
ようやく呼吸を整えた楓は、ゆっくりと佳奈子に向かって手を伸ばした。
熱を持った腕に抱き寄せられ、佳奈子は額に口付けられる。
目を閉じそれを受けた後、佳奈子は楓の胸に頬を擦り寄せた。
(………心臓の音……速い……)
トクトクトク、と速いリズムが肌に伝い、それが何故か切なく佳奈子の耳に響いた。
「………ごめんね、楓」
唐突な謝罪の言葉に、楓は胸元の佳奈子のつむじを見下ろす。
「え?」
「………なんか、色々巻き込んじゃって。……色んなことに付き合わせちゃって」
「………………」
悄然とした佳奈子の声に、楓はクスッと笑みをこぼした。
「付き合ったのは、愚痴と酒だけだよ」
「……………え」
「一緒にいるのも、エッチしたのも、全部俺の意思だよ」
「………………」
佳奈子はのろのろと顔を上げる。
その瞳には微かな戸惑いの色が浮かんでいた。
楓はそっと佳奈子の髪を撫でる。
「俺こそごめん。……ゴムなくて、生でしちゃって」
「…………ううん」
「ホントに大丈夫?……中には出してないけど」
ふと不安になり尋ねると、佳奈子はしばらくの無言の後でコクリと小さく頷いた。
そして顔を伏せたまま、蚊の鳴くような小さな声で呟いた。
「…………私ね。……ほぼ自然妊娠はできない体なんだって」
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