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そのまま顔を覆って肩を震わせ始めた佳奈子を見て、楓は言葉をなくしてしまった。
それと同時に、佳奈子が何故あんな風に辛辣な言葉を投げ付けたのか、何故突然連絡が取れなくなったのかを理解することとなった。
(………佳奈子さん……)
連絡が途絶えたのは一週間前。
その間、誰にも相談出来ずにたった一人で佳奈子は苦しんでいたのか。
………元々ほっそりとシャープだった顔のラインが、やつれて見えてしまう程に。
「…………………」
少し落ち着きを取り戻した楓は、ふうっと息を吐き出してからそっと佳奈子の肩に手を置いた。
ビクッと佳奈子の細い肩が震える。
「佳奈子さんのこと、アバズレだなんて思わないよ。……相手がわからない理由、俺は知ってるから」
「………………」
「泣いてたって何も始まらないよ。……ちゃんと、これからの話しよう?」
柔らかい声でそう言うと、佳奈子はゆっくりと顔を上げた。
涙でぐしゃぐしゃになった目で楓の顔を見つめる。
「………これからの……話……?」
「うん」
当惑したような問いに、楓はこくりと頷いた。
「手術のこととか。……あれって確か父親の同意書いるんだよね。必要なら俺がちゃんと書くし、手術の日は付き添うから」
その瞬間、佳奈子の顔色がサッと変わった。
小刻みに唇が震えだし、まるで責めるような強い目で楓の顔を見返す。
その瞳の力強さに、楓は驚いて口を噤んだ。
「………楓は……堕ろして当たり前だって思ってるんだね」
「え……」
「そりゃ、そうよね。……父親がわからない子供なんて、産むほうがどうかしてるよね」
薄く笑った佳奈子を見て、楓はハッと息を飲んだ。
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