248人が本棚に入れています
本棚に追加
「………家まで来るとか、ほんとマジで勘弁して」
「………………」
「着信拒否された時点で、普通は嫌われたんだって気付かない?」
長い髪を耳にかけながら、佳奈子はキツい口調でそう言った。
思ってもいないことを口にするのは。
大好きな人を傷つけてしまうのは、本当に辛かったが。
楓のことを思えば、これが一番いいのだ。
こんな女のことは、事故にでも遭ったと思って忘れてしまえばいい。
自分は楓にはふさわしくないから。
楓にはきっと、もっと素敵な女性が待っているから。
………心底嫌いになって構わないから。
「やっぱり私、あんたのこと男としては見れない」
「………………」
「ノリで一回ヤッたぐらいで、勘違いしてつきまとわないで」
佳奈子が辛辣な言葉を重ねるのを、楓は顔色一つ変えずに黙って聞いていた。
真っ直ぐに逸らすことなく、佳奈子の目を見つめたまま。
その視線のあまりの真っ直ぐさに、佳奈子は楓の顔を直視できずに思わず目を伏せてしまった。
「………とにかく、そういう訳だから。……もうこんな風に会いに来たりしないで」
「嘘だ」
佳奈子が全てを言い終わる前に、楓はキッパリとそう言い切った。
あまりにもはっきりと否定され、佳奈子は面食らって顔を上げる。
辺りはどんどん暗くなっていくのに、何故か楓の強い瞳はよく見えた。
「な、何が嘘よ。嘘なんかじゃ……」
「嘘だよ。わかるよ、それぐらい」
楓は言いながら、一歩佳奈子に踏み出した。
「それがホントなら、なんで佳奈子さん泣いてるの」
「……………!」
「なんでそんなに辛そうに言うの」
最初のコメントを投稿しよう!