望まぬ受胎告知

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佳奈子がはっきりとした体調の変化に気付いたのは、7月の最終日のことだった。 微熱があり、どことなく体が怠い。 だが、卵巣機能不全で定期的に婦人科の薬を服用している佳奈子は、ホルモンバランスをよく崩しがちで。 始めのうちは、またその症状が出ているだけだと思っていた。 だが微熱がなかなか治まらず、それでも佳奈子は夏風邪かもしれないと楽観視していた。 だがその日、昼の休憩時間。 休憩室でお弁当を食べようと蓋を開けた瞬間。 鼻をついた食べ物の匂いに、佳奈子は胸を突き上げるような吐き気を覚えた。 「…………っ」 たまらず両手で口元を押さえ、そのままトイレへと駆け込む。 洗面台に走り寄り、そこに顔を突っ伏した。 「……っ、……う」 嘔吐はしなかったが、何かが胸から突き上げてきて、堪えきれずに佳奈子はペッと唾を洗面台に吐き捨てた。 蛇口をいっぱいに捻り、水を両手で掬って口を濯ぐ。 「………………」 幾分それで吐き気は治まり、佳奈子はぼんやりと鏡に映る自分の顔を見つめた。 青白い顔色に、何故か薄い笑みが浮かぶ。 (………は。……何よこれ。まるでドラマのつわりシーンみたい……) 「……………」 だがそこで、佳奈子はスッと笑いを収めた。 つわりという単語に、顔から血の気が引いていくのがわかる。 (………まさか……だって……) 思わず頭の中で、前の生理の日を遡った。 前の生理は確か、先月の20日過ぎ。 確かに一週間以上は遅れている。 だが、この頃は順調だったとはいえ元々生理不順だった為に、一週間遅れることなど今まではざらにあった。  
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