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楓の言葉を受け、佳奈子はハッと自身の頬に手を当てた。
楓が拭ってくれたはずの涙がいつの間にかまた溢れ出していて、佳奈子の頬をべとべとに濡らしてしまっていた。
どうやら楓に酷い言葉を投げ付けながら、無意識に泣いてしまっていたらしい。
「……………っ」
佳奈子は口元を押さえ、深く俯いた。
そんな佳奈子を見て楓は小さく息をつく。
「俺、生半可な気持ちで佳奈子さんに付き合ってって言ったんじゃないよ」
「………………」
「男に裏切られて傷付いてた佳奈子さんのこと、守ってあげたいって思ったんだ」
そう言うと楓は膝に手を付き、佳奈子の目線に合わせるように体を屈めた。
「話してよ。……何があったの?」
「……………っ」
優しく肩に手を置かれ、佳奈子はとうとう堪えきれずに両手で顔を覆って激しく嗚咽し始めた
この一週間、誰にも相談できずにずっと一人で不安と戦って生活していた。
気を抜くと足元から崩れ落ちてしまいそうで、怖かった。
どうしていいのかわからなくて、出口のない迷路に迷い込んだみたいに途方に暮れて。
………ずっとずっと、誰かに縋り付きたかった。
助けて、助けて、と。
いつも心の中で叫んでいた。
「か、えで…。……楓…っ」
震える指で、佳奈子は楓のスーツの裾を掴む。
すると楓は、やんわりと包み込むようにその手を握りしめた。
「………うん、大丈夫。ここにいるから、ちゃんと」
「……………っ」
そのまま頭を胸に引き寄せられ、忘れかけていた温もりを肌に感じ。
佳奈子は大声でしゃくりあげながら、楓の胸にしがみついた。
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