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「……………うっ」
次の瞬間、佳奈子はハンカチを口元に当てて体を前のめりに折った。
そうして額をダッシュボードにくっつけるようにして、苦しそうな呻き声を漏らす。
驚いた楓はとっさに佳奈子の背中をさすった。
「ちょっ…、どうしたの、佳奈子さん!」
「……………うぅ」
「もしかして体調悪い? やっぱ帰る?」
長い髪の隙間から見える佳奈子の顔が真っ青で、楓は激しく動揺した。
だが佳奈子は力なく楓の袖口を掴み、ふるふると首を横に振った。
「………大丈夫」
「で、でも……」
「大丈夫だから。……病気じゃ、ないの」
ゆっくりと佳奈子は顔を上げ、楓の顔を見つめた。
その顔色の悪さに楓はドキリとする。
「でも調子悪そうだよ? 今日はもう帰ったほうが……」
「………平気。……ちょっと、落ち着いたから」
そう言うと、佳奈子は折り曲げていた体を静かに元に戻した。
そのまま体ごと楓に向き直る。
何かを決意したような瞳を見て、楓は妙な胸騒ぎに襲われた。
「佳奈子さ……」
「一一一一妊娠、してるの」
楓の言葉を遮って、発せられた佳奈子の言葉に。
一瞬何を言われたのか理解できずに、楓はぼんやりと佳奈子の口元を見つめ返した。
微動だにせず、ただ自分を見つめる楓を見て、佳奈子は切なげに眉を下げてもう一度はっきりと口にした。
「私、妊娠してるの」
「……………」
「お腹の中に、赤ちゃんがいるの」
涙声に震えた佳奈子の声を聞いて。
ようやく意味を理解した楓は、ゆるゆると目を見開いた。
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