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「え。……に、妊娠……?」
身じろぎしながら聞き返すと、佳奈子は無言で頷いた。
楓は思わず佳奈子のお腹に視線を向ける。
(………え。……ちょっと待って。……何だって?)
頭を思い切り殴られたような衝撃を受けて、楓はゴクリと大きく喉を鳴らした。
『私、妊娠してるの』
『お腹の中に赤ちゃんがいるの』
佳奈子が発した言葉が、頭の中をぐるぐると回り出す。
すっかり気が動転してしまい、楓は後頭部をグシャグシャと掻き回した。
「………そ、それって……誰の……」
そこまで言って、楓はハッと口を噤んだ。
佳奈子の顔がとても悲しそうに歪んだからだ。
(………まさか……)
楓のこめかみをスッと一筋汗が流れ落ちる。
今まで経験したことのない嫌な動悸が、ドクンドクンと耳の奥でこだました。
「俺の子供……なの?」
「………………」
すると佳奈子は真っ青な顔のまま俯き、唇を噛み締めて首を横に振った。
それを見た楓は、ホッとしたような複雑な気分に襲われる。
だが、自分の子供じゃないのだとしたら、それはつまり一一…。
「………それじゃあ、例の男の……」
「わからないの!」
楓の言葉の途中で、佳奈子は叫ぶようにそう言った。
驚く楓を、佳奈子は涙の溜まった目で見上げる。
「わからないの。……あいつの子供か、楓の子供か」
「え………」
「信じられる? 自分のお腹の中にいる子供の父親が誰かわかんないなんて……。とんでもないアバズレでしょ、私」
自嘲気味に言ったその時、佳奈子の両目から堰を切ったように涙が溢れ出した。
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