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佳奈子に言われた言葉に、頭を打たれたような衝撃を受ける。
佳奈子が何を苦しんでいるのか。
それを今、楓はようやく理解した気がした。
「………産みたいの? 佳奈子さん……」
おそるおそる問うと、佳奈子は涙の滲んだ瞳でキッと楓を見据えた。
「産みたくないわよ、そんなの! 産むなんてことが現実的じゃないことぐらい、私にだってわかる!」
「………………」
「でもだからって、簡単に堕ろすなんて言えないよ! 今回堕ろしたら、もう2度と妊娠できないかもしれないって言われて、赤ちゃんのエコー写真見せられて…っ」
興奮気味に叫び、佳奈子は自身のお腹を服の上から押さえ込んだ。
「ここに赤ちゃんがいて、ちゃんと今も生きてるんだよ…!? それなのになんでそんなあっさり、手術とか言えるの……!?」
楓は何も答えられない。
確かに佳奈子の言う通り、このまま赤ちゃんを産むなんて選択肢は楓にはなかったからだ。
「何よ、楓が言ったくせに!」
「………え?」
「私が命を粗末にしない人でよかったって……楓がそう言ったから、私…っ」
ドキッと楓の心臓が大きく弾む。
佳奈子の言葉が鋭い刃となって、胸を抉り取られたような感覚に陥った。
(………そうだ。……俺が佳奈子さんにそう言ったんだ…)
佳奈子が自殺をしようとしていたのではないと聞いて、自分が佳奈子にその台詞を言ったのだ。
まだ生まれていないからといって、お腹の子供は確かに生きているのに。
それを堕ろすということは、一つの命を摘むことと同じなのに。
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