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「………ごめん。……ごめん、佳奈子さん。確かに俺、軽率だった……」
躊躇しながらそっと佳奈子の肩に触れようとすると、佳奈子はバッと勢いよくそれを振り払った。
気圧されて怯む楓を、佳奈子はじっと射るように見据えた。
「………いい。わかってる。楓の反応が普通なんだよ」
「………………」
「こうなったのも、ちゃんと避妊しなかった自分が悪いんだから」
「そ、それは俺だって責任あるよ。……あの時流されないでちゃんとしとけば……」
「楓は悪くないよ。……安全日だなんて、私が嘘ついたんだし。……それに」
佳奈子はフロントガラスの奥を遠い目で見つめながら、お腹にそっと手を置いた。
「あの時の子供とは限らないんだから」
抑揚のない冷めた声色に、楓は少なからず背筋が寒くなるのを感じた。
さっきの自分の軽率な言葉が、佳奈子の心を完全に打ち砕いてしまったのだと。
紙のように白い佳奈子の横顔を見つめながら、楓は悟ってしまった。
「………か、佳奈子さん。……とにかく、ちゃんと話を……」
「いいわよ、もう。話したって同じじゃない」
佳奈子はまだ半分残っていたお茶のペットボトルをバッグにしまってから、助手席のドアを開けた。
途端に夏の夜の熱気が、冷房の効いた車内に滑り込んでくる。
車を降りようとしている佳奈子の手首を、楓は慌てて掴んだ。
「待ってよ佳奈子さん、まだ話終わってない……」
「………だからっ」
掴まれた腕を振り払い、佳奈子はキッと楓を睨み付けた。
「いくら話したって結局答は一つなのよ! この子が誰にも望まれた子じゃないってことだけは、はっきりしてるんだから!」
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